病気や入院となると身体の心配はもちろんですが、次に気になってくるのがお金の話。
個室に入らなくても1週間の入院で10万円近い請求をされるのが当たり前。
これが1ヶ月の入院、更に手術なんてしようものなら数十万円の請求をされることになります。
でも実は、1ヶ月に負担する医療費には上限があるってご存知ですか?
この記事では、医療費の負担を抑える『高額療養費制度』について紹介します。
結論から言うと・・・
年収370万円~770万円の場合、1ヶ月に掛かる医療費の上限はおよそ9万円弱。
ただし、保険適用外の食事代や個室料は対象外。
高額療養費制度の概要
高額療養費制度は、1ヶ月に負担する医療費を抑えるための健康保険の制度です。
例えば一般的な会社員(年収370~770万円)が病院に掛かり、医療費の総額が100万円だったとします。
健康保険で3割負担になるので、窓口で実際に請求されるのは30万円。
しかし、高額療養費制度を使えばこのうちの212,570円は還付対象となり、実質の負担額は87,430円で済むのです。
ただし、この限度額が適用されるのはあくまで健康保険が適用される範囲。
健康保険が適用されない食事代・シーツ類のクリーニング代などはこれと別枠で負担する必要があります。
そのため、実質的には10万円強の費用が掛かると考えておいたほうが良いでしょう。
制度の適用は世帯・複数の医療機関で合算OK
この制度における『限度額』は、同一世帯の中で複数の医療機関を合算して計算することができます。
※同一世帯=扶養の範囲内。
例えばこのようなケース。(妻は夫の扶養、夫の年収は500万円とする)
各病院の費用は80,100円を超えていませんが、合算すると13万円となり高額療養費の適用対象となります。
ただし、70歳未満の方の場合は1つの医療機関で21,000円以上の自己負担をしていることが合算の条件となります。
例えばこのようなケースだと、病院A・Bの分は合算して高額療養費の対象となりますが、病院Cの分はそれと別枠で負担することになります。
- 病院A・Bの分 = 80,763円
- 病院Cの分 = 15,000円
- 合計 = 95,763円
なお、70歳以上であれば1医療機関21,000円以上のルールが適用されないため、妻が70歳以上だった場合には病院Cの分も合算可能です。
合算可否については以下のようなルールにも注意が必要です。
- 同一医療機関であっても、入院と通院(外来)は合算不可
- 薬局の会計は、処方された病院の会計と合算可
- 同じ医療機関に複数回掛かった場合、同月内であれば合算可
- 同一病院であっても歯科と歯科以外は合算不可
特に注意したいのは、一点目の『同一医療機関であっても、入院と通院(外来)は合算不可』という点ですね。
退院後に通院に切替わるタイミングでの負担増となるケースが多いです。
負担する医療費の上限は所得に応じて変わる
高額療養費制度で負担する医療費は、所得に応じて上限が変動します。
負担額は以下の通り。(70歳未満の場合)
年収(区分) | 上限額 | (100万円の場合) |
---|---|---|
約1160万円以上 | 252,600円 +(医療費-842,000円)×1% | 254,180円 |
約770~1160万円 | 167,400円 +(医療費-558,000円)×1% | 171,820円 |
約370~770万円 | 80,100円 +(医療費-267,000円)×1% | 87,430円 |
約370万円未満 | 57,600円 | 57,600円 |
住民税非課税 | 35,400円 | 35,400円 |
※医療費:3割負担額ではなく、全額で計算。
最も該当する方の多い『年収約370~770万円』の場合、1ヶ月に負担する医療費の上限は『80,100円+(医療費 - 267,000円)×1%』です。
ちょっと分かりづらいので『(100万円の場合)』の列に、医療費が100万円(3割負担で30万円)だった場合の計算結果を記載しています。
この層の年収の方が100万円の医療費が掛かった場合、自己負担額は87,430円ということになります。
ちなみに、267,000円 × 30% = 80,100円。
つまり『267,000円まで3割負担、それ以上は1%負担』という計算になっています。
1年に4回以上の適用で更に限度額が下がる(多回数該当)
更に、1年間で4回以上の高額療養費制度の適用があった場合、限度額が更に引き下げられます。
年収(区分) | 上限額 | 多回数該当の場合 |
---|---|---|
約1160万円以上 | 252,600円 +(医療費-842,000円)×1% | 140,100円 |
約770~1160万円 | 167,400円 +(医療費-558,000円)×1% | 93,000円 |
約370~770万円 | 80,100円 +(医療費-267,000円)×1% | 44,400円 |
約370万円未満 | 57,600円 | 44,400円 |
住民税非課税 | 35,400円 | 24,600円 |
この『1年間で4回以上の適用』とは1月~12月や年度ではなく、『該当する月の過去12ヶ月間に3回以上の適用があったか』という条件で判定されます。
例えばこのようなケース。
1月、2月、10月と高額療養費が適用された後、11月にも適用となった場合です。
11月から数えて過去12ヶ月間(前年11月~10月)に3度適用されているため、11月分は多回数該当。
一方で、このようなケースで3月分は多回数該当になりません。
一見すると頻繁に適用されているように見えますが、3月から過去12ヶ月間を見ると該当が2回しかないため、多回数該当とはなりません。
食事やクリーニング代は適用外!
冒頭でも触れましたが、高額療養費で対象となるのは純粋な治療費や薬代など『健康保険の適用される範囲』です。
- 食事代
- クリーニング代
- 差額ベッド代(個室料)
- 自費治療(保険適用外の治療、脱毛や整形なども含む)
- 通院のための交通費
こういったものは健康保険の対象外であり、高額療養費でもカバーされない部分です。
例えばこのようなケース。
年収500万円の会社員が一週間入院して、以下の費用が掛かったとします。
- 治療費:360,000円
- 差額ベッド代:150,000円(5,000円 × 30日)
- 食事代:41,400円(460円 × 3食 × 30日)
- クリーニング代:9,000円(300円 × 30日)
この中で高額療養費の対象となるのは『治療費:360,000円』のみです。(上限89,430円)
その他の高額療養費適用対象外の部分を合計すると289,830円の自己負担が発生することになります。
なお、これが個室じゃなくても自己負担は139,830円。
食事代やクリーニング代も意外と侮れないんです。
限度額の計算は『カレンダー上の1月』
高額療養費における『1ヶ月に掛かる医療費の上限』という考えは、カレンダー上の1ヶ月のことを意味しています。
つまり、月の1日から末日まで。
例えば20日間の入院であっても、月を跨げばそれぞれで限度額が計算されてしまいます。
- 同月中に退院:89,430円
- 月をまたぐと:166,860円
同じ20日間の入院、同じ治療費であっても、月を跨ぐかどうかでこれ程の差が出てしまいます。
- 多回数該当は『直近12ヶ月』
- 1ヶ月の判定は『暦上の1月』
ちょっとややこしいですが、かなり重要です。
基本は立て替え払い、還付は約3ヶ月後
さて、ここまで紹介してきた高額療養費制度ですが、【条件を満たせば勝手に請求額に制限が掛かる』という訳ではありません。
手続きの基本は『一度病院窓口で全額支払い後、健康保険組合に払い戻し請求を行う』のです。
しかし、この場合には診察から還付を受けるまでおよそ3ヶ月もの期間が掛かってしまいます。
数十万円もの金額をその間立て替えることになるのです。
いくら戻ってくるとはいえ・・・ちょっと避けたいですよね。
そこで活用したいのが、次に紹介する『限度額認定証』です。
事前に分かっている場合は『限度額認定証』で窓口負担を抑える
長期の入院や手術など、医療費が高額になることが予想される場合には『限度額認定証』を活用しましょう。
加入している健康保険協会などに申請すると発行される証明書で、『私の医療費負担限度額はこの金額なので、これ以上は請求しないでください』ということを病院に伝える効果があります。
(差額は健康保険組合などに請求されます)
これを病院の窓口などに提出しておけば、退院時の支払いが限度額が適用された金額になります。
病院に掛かって『1週間以上入院』と言われたら、すぐ加入している健康保険組合に限度額認定証の発行を申請しましょう。
多くの場合、公式サイトなどから申請書をダウンロード・郵送で申請という流れになっています。
(1週間程度で郵送。一人暮らしの場合、病院などに送ることも可能です。)
ただし、これが使えるのは『一つの医療機関で限度額を超えた場合』のみ。
複数の医療機関・家族と合算する場合には使えないのでご注意を。
限度額認定証は即日発行可能?
限度額認定証は申請からおよそ1週間ほどで発行・郵送されてきます。
長期の入院だった場合には問題ありませんが、1週間程度の入院だった場合には退院までに間に合うかギリギリです。
その場合、健康保険組合によっては窓口に直接行けば限度額認定証を即日発行してくれるケースがあります。
自分がいけなくても家族が代理で申請できる場合もあるので、まずは加入している健康保険組合へ連絡を。
ちなみに僕は妻・実母・義父の分を代理で申請したことがあります。
それぞれ別の健康保険組合でしたが全て即日発行して貰えました。
まとめ
- 1ヶ月に負担する医療費は、所得に応じて上限が設けられている
- ただし、食事代や差額ベッド代など保険適用外のものは除く
- 基本は立て替えて後日還付だが、限度額認定証を使えば上限以上払う必要なし
この制度を知っておくだけで入院に対する心配が大幅に軽減するかと思います。
生活費を支える傷病手当金と併せて、日本の公的保障は本当に手厚い。
せっかく税金や保険料払っているなら最大限活用していきたいですね。
-
-
医療保険(入院保障)は本当に必要なのか|公的保障制度と合わせて徹底解説
生命保険の代表的な保障内容として、『入院保障』があります。 入院したら一日○○円 手術を受けたら一回○万円 といった保障 ...
続きを見る